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【LIBRARY】『ひと アート まち』 2008年5月号

ひと アート まち  

【2008年5月号】

孤立力で行こう !!

 
 金魚は、水中に有害な物質が入ったとき、自分の代謝排出物により有害な物質を無毒化する効率が高まるという理由で、一匹でいるより群れているらしい。
 蛇も、代謝が低下し酸素消費量が減るので、数匹でいつも固まっているのだという。
 鳥や猿といえば、群れて生活しているために、ある一匹が敵を見つけ て声を上げることで、群れ全体が敵に気づくことで外敵からの被害を最小限にするらしい。
 人間は、一人で立ち止まって考えると厄介な事になると知っているので、考えないようにするために、群れつながって、同じような駅舎のある、同じよう な街に住んで、同じような車に乗って、同じような洋服を着て、同じような犬を連れ て、同じような映画を観て、同じような物を食べて、同じようなメールを際限なく続け て、同じような仲間のいる小さな世間の中だけで、ただ同調し合って安心を得ている。
 かつての群れの多くは、ひとりでは生きてはいけない切実さの中で助 け合い、支え合っていくものだった。ところが、現代社会が辿り着いた群れは、もはや助け合いや協調のものではなく、群れからはずれないための同調のものになってし まったようだ。
 練炭の次は硫化水素と、自殺の仕方までも流行にして消費させようと するテレビは、経済格差だ階層差異だと未来に対する不安ばかりを繰り返し煽り、日替 わりで、弱いものがまたさらに弱いものを叩く現実を大げさに刷り込み続けていく。
 あげく、そんな喧噪の中で、ひとり「宇宙はどこまで広がっているの だろう」と夢想し空を見上げる心豊かな変わり者は、いじめられ、傷つき、居場所を 失い、可能性を閉ざされて、小さくなって自分だけの王国へと退却する。
 ほとんどの大人は、この退却する子どもたちを「甘え」だという。しかし、僕はどちらかというと、彼らを批難する人間の方が甘えているように思えてな らない。
 平穏な群れの中に安住し、「みてみぬふり」をしている方がそれは楽 なのだから。
 確かに彼らは、不完全な存在に違いない。しかし本当に駄目なのは、 不完全なものではなくて、その「不完全さに耐えられない世の中」なのだとつくづく 思う。 
 彼らは、孤立はしても決して孤独ではない。あと5億年しかないこの 地球で、たくさんのまだ見ぬ理解者も一斉に想像力の羽を大きく広げ始めようとして いるのだから。
 だから今は、いきいきと生きろなんて言わない。でも決して死なない で欲しい。
 (また、自分だけの王国に帰ってしまった君に・・・。)

 
(朝日新聞 群馬版 2008年5月9日 掲載)
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